日々の泡

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【映画】『はじまりへの旅』感想

◼評価
 ★★★☆☆(3.9/5.0)

◼感想
 「家族もの感動ロードムービーかと思いきや、観る人の良識を問う問題作」

 家族ものの感動ロードムービーかと思いきや、この映画は、観客である私達が普段信じていた価値観に対し、絶えず疑問を突きつけてくる社会的な問題作だった。
 常識とは何か?社会とは何か?幸せとは何か?教育とは何か……そんないくつもの疑問を、観客に投げ掛けてくる映画なのだ。
 当初私は、変わった家族の面白映画かと思い、鑑賞に臨んだ。だが、見事に予想を裏切られ、観た後はこの世界の見方が変わってしまったような、衝撃を受けることになった。

 序盤は、厳格な父親ベン(ヴィゴ・モーテンセン)と6人の子供達の、世間から隔絶された森の中での生活を描く。ナイフで鹿等の獣を狩ったり、自給自足の生活や、山の中を駆け抜ける等の訓練、そして読書を通して、父親は子供達に立派な教養と強靭な肉体を与える。その教育方法は独特だが見事で、学校に行かずとも、長男は名だたる有名大学全てに合格するほど。社会とは切り離され、一見奇怪な暮らしを営む一家だが、その生活は満たされているように見える。
 しかし、入院中の母が自殺したという知らせを受けたことから、家族は森を出て、母の遺言を果たすため、バスで遠く離れたニューメキシコへと旅立つことになる。

 中盤は、これまで森に籠って生活していた家族が、初めて大都会や普通の人々に触れ、彼らの暮らしぶりを知ることで、子供達(特に長男や次男)が違和感を覚える様子を描く。そして、それまで家族に感情移入をしていた観客である私も、彼らと同時に、世間の常識のおかしさに疑問を持つようになった。
 普通の人々からすれば、学校にも行かせず森の中で子供を育てたり、クリスマスではなくノーム・チョムスキーの誕生日を祝う家族は、カルトに見えるのも仕方ない。だがベンら家族の視点からすれば、一人で獲物も狩れず、本を読まずにゲームばかりする子供達の方が、生きる力の無い、か弱い人間達に見えてくるという不思議さ。
 この辺りで、私は正直自分の常識や、信じていた価値観というものを疑わざるを得なくなったのだが、それはベンら家族も(逆の意味で)同じだったようだ。

 後半、母の葬儀の乱入後に、旅を通して世間の常識に晒された家族は、あることをきっかけにバラバラになってしまう。
 そして、それまで強い信念で父親をやっていたベンは、これまで子供達に行ってきた教育が、実は自分の価値観を刷り込んでいただけの、ただのエゴだったのではないか、と迷いを持つようになる……。

 色んな家族の形がある、と時に人は言う。けれど、果たして社会は、世間の常識は、私達は、この映画の家族のような人々を、果たして実際受け入れることが出来るのだろうか……?

 その意味で、この映画は単なる家族愛についての物語ではなく、観る人の価値観や良識を鋭く問いかけてくる、ある種の問題作のように思えた。