日々の泡

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【映画】『T2 トレインスポッティング』感想

◼評価
 ★★★★☆(3.9/5.0)

◼感想
「クズ男達のミドルエイジクライシス」

 ヘロインまみれの20代を描いた前作から20年。月日は流れ、再びマーク・レントンエディンバラへと戻ってくる。
 映画冒頭は前作と同じく、人が走る姿から始まる。思わず甦るあの疾走感。ただ前作と違うのは、走っているのがマークではなく見知らぬ中年男性で、車にはねられた挙げ句追われて捕まるのではなく、ウォーキングマシーンで勝手に転倒して意識を失ってしまうこと。ここで観客である私は、示唆的なものを感じとる。ああそうだ、マークはもう全力疾走して逃げ切れるトシじゃないんだよな、と。

 20年以来のエディンバラの悪友達は、一見(残念なほど)変わっていない。ベグビーは勝手に刑務所を脱走、スパッドは家族を一時得たもののヘロイン中毒に舞い戻り、シックボーイことサイモンは女を使って恐喝。前作で金を持ち逃げして、悪友達と縁を切った主人公マークすら、外国に逃亡するものの結局離婚し、何者にもなれないまま故郷へ帰ってくる。
 だが 彼らの中身が変わらずとも、20年の歳月は流れて、確実に身体は老いてしまった。再会したマークとサイモンは過去の話題に花を咲かせるが、ブルガリアから出稼ぎに来ている若いベロニカは、そんな二人を見て、彼らがまだ過去にすがって生きているのを見抜く。

 ある時ベロニカに尋ねられ、マークは"Choose Life"の意味を語る。この80年代の麻薬撲滅キャンペーンのスローガンの裏で、 マークの頭の中では、これまでの過去がフラッシュバックする。選べると思っていた若き日の事と、結局何からも抜け出せなかった現在、選べなかった過去の選択肢たち、そして手持ちのカードも尽きつつある今ーー……。
 マークがベロニカに語る"Choose Life"は若い彼女にエールを送るようで、自分の半生を振り返った後悔の言葉のようにも聞こえた。

 作中最もクレイジーな人物であるベグビーにも、過去の哀愁はある。若い頃友達と廃駅に忍び込んだ時に、話し掛けてきたアルコール中毒のオヤジを見て、ベグビーだけは笑えなかったというエピソード。そのオヤジはベグビー達を見て、「お前らは鉄道オタク(Trainspotting麻薬中毒者)か?」と訊ねる。実はそのオヤジはベグビーの父親だった。アルコール中毒者の父親が息子にヤク中かと訊ねるという、皮肉な構図。
 だがベグビーの息子は父親に似ず、大学に入り、人並みの人生を送ろうとしている。そんな息子を見て、怒りながらもベグビーは「自分の頃は選択肢がなかった」と振り返る。
 "Choose Life" だが誰もが人生で多くの選択肢を与えられている訳ではない。ベグビーも人生を選べなかった一人だった。

 "Choose Life" 20年前はまだ誰もが人生を選べると思っていた。だが、これが選べた筈の未来だったのか?マークら四人の姿には、老いの哀しさを感じざるを得ない。そしてそれに気づいても、選んできた道は引き返せない。

 ……と、これだけのストーリーであればただのダメダメ中年の話になるのに、何故だか彼らは未だカッコいいのが、最高にズルい。
 次から次へとかかるスタイリッシュすぎる音楽の洪水、動きのあるカメラワーク、散りばめられたユーモアが、悲惨なオジサン達の日々をカッコよく盛り上げちゃうのが、またズルい。頭の薄いダメなオジサンなのに、それでもマーク達はなんかカッコよいから、ズルい。

 最初にチャンスがあり、次に裏切りがあった。
 終わり方は前作と同じ構図だが、裏切る側と裏切られる側は変わっている。そして今回も、裏切りは希望の象徴に思えた。

 前作よりも更に各キャラクターの内面を深く描いた今作は、続編でありながらも、マーク達の原点を辿る物語になっていたように思う。