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【映画】五月に観たその他映画感想

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ワイルド・アット・ハート』(1990年デヴィッド・リンチ監督)
◼評価
 ★★★★⭐(3.9/5.0)
◼感想
 「暴力とセックスにまみれたオズの魔法使い
 デヴィッド・リンチ監督は、ツインピークス(S1~S2)やブルーベルベット、マルホランドドライブ等はこれまで観たことがあったのに、リンチ監督作品の中では一番初心者向けと言われ、1990年のカンヌでパルムドールを受賞していた本作をスルーしていたのに気付いて、今回鑑賞することに。
 本作は『オズの魔法使い』をオマージュしているとのことだが、そこは異才リンチ監督作品。ファンタジー的な要素を盛り込みつつも、暴力とセックス、そして狂気に満ちた映画に仕上がっていた。
 冒頭から何度も提示される炎、赤の色彩が、この物語の重要なキーであることを伝えてくる。物語の時系列操作などもなく、確かにその点では(リンチ監督にしては)分かりやすい映画だった。
 最後の「ラブミーテンダー」がリンチ作品とは思え無いくらいロマンティックだった。


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タクシードライバー』(1976年マーティン・スコセッシ監督)
◼評価
 ★★★★⭐(4.1/5.0)
◼感想(ネタバレあり)
 不眠症に悩むトラヴィス(ロバート・デニーロ)は、マンハッタンのタクシードライバーの職を得、夜の街をタクシーで走る。彼は麻薬売人や娼婦などで賑わう盛り場の雰囲気を嫌悪しており、また何者にもなれない惨めな自分の境遇への逆恨み的に、世間に憎悪を抱いている。そのくせヒーロー願望が強く、肥大する自意識と実際のみじめな自分の圧倒的な違いに、常に苛立って生きている。
 ある日上院議員の選挙事務所で働くベッツィに一目惚れする。彼の頭の中で、女性は娼婦と聖女の二種類しかなく、ベッツィを勝手に自分が抱く聖女像に当てはめ、恋をする。トラヴィスはなんとか彼女と親しくなるが、彼女をポルノ映画に連れていった事から激昂され、無視されるようになる。
 彼の精神の闇はますます濃くなっていき、彼は無許可で銃を購入する。
 ある夜偶然出会った12歳の少女娼婦アイリスと知りあい、勝手なヒーロー願望から彼女を救おうとする。ある日、銃を用意し、彼女の仕事場へ乗り込み、客や売春斡旋人達を撃ち殺す。それは正義感からというよりも、独りよがりなヒーロー願望の行動からだったが、世間は彼を少女を救った英雄として称える。トラヴィスは満たされ、タクシードライバーとして、仕事を続ける……。
 トラヴィスは自分を正義の英雄だと思っているが、彼の行動原理は正義からくるものではなく、単なる幼稚で身勝手な承認欲求から来ている。彼は売店に襲ってきた強盗を撃ち殺して店員から称賛されたりするが、それは正義という名目のもとに他人を粛清したいという、身勝手な暴力衝動から起こした行動だ。
 日本でも、例えば電車の中で通話する若者に対し、「ここは電車の中だぞ!」とマナーを名目に(必要以上に大きな声で)怒鳴ってくるような人がいる(大抵は中高年男性が多い)。そういう人は、マナーという正しさのもとに他人を殴りたいのであって、本当はマナーについてはどうでもいいのである。トラヴィスにとっての正義も、こういう類いのものだ。
 彼の狂気を、画面を通じて観客は知っているが、画面の中の世間では、彼はヒーローとして持ち上げられる。あの世界では、これからもトラヴィスという凶人が英雄として伝えられ、世間の中で持ち上げられるのだろう。
 私たちの周りにも、善人の顔をした凶人がいるのかもしれない……この映画を観てしまった後は、そんな風に、世界の歪みを疑わざるを得ない。なんとも気味の悪い、後味の残る映画だった。